【ミライデザイン研究所】鑑賞する絵画から、体感する絵画へ -後編-

インサイドジール 日本語記事

クリエーティブ本部 デザイナーのIです。 【ミライデザイン研究所】とはーーー 空間デザインの領域から一歩外に飛び出し、 考え方やデザインの成り立ちについて考察、予想しアイデアにプラスしていく、そんな企画です。 前編に引き続き、現在日本橋三井ホールで開催中の日本初の没入体験型ミュージアム 「Immersive Museum(イマーシブミュージアム)」についてお送りします。 このイベントを体験して感じた下記の2点、 ①作品世界により深く入り込ませるための要素 ②没入体験を最大化するための工夫 のうち、後編では②について考察します。 ②没入体験を最大化するための工夫 ◆入口 絵画の世界が広がった空間へ誘導する前に、プロローグとして絵画についてや、 印象派が生まれた背景などを読みながら入る形になっていました。 映像のみの展示になるので、最初に言葉で時代の背景を頭に入れ、そこから体験することで、 絵画の世界にスムーズに入り込んでいけると感じました。 ◆黒いカーテン HPやこちらのフォトスポットにもなっていますが、黒いカーテンが会場入口にもあり、そこから展示に入れるようになっていました。 入口付近も全体的に暗くなっていて、真っ暗なカーテンの隙間からカラフルな映像が見えるような演出がされていました。 来場者のワクワク感を高めると同時に、カーテンをめくって中に入るという動作が伴うので、 "入り込んだ"という没入感が高まっているのではないかと思いました。 ◆Café & Giftエリア Immersive Museumでは、Café & Giftエリアも展開しており、印象派をモチーフにしたドリンクやフードも提供されており、 ここでも絵画の世界に浸れるような工夫がされていると思いました。 こちらのクリームソーダはクロード・モネ『日の出』『睡蓮』『睡蓮の池と日本の橋』がイメージされていて、 飲みながら色の混ざり合いを楽しむことができました。 また、このエリアでは、サウンドアーティストYuu Udagawaによる サウンドインスタレーション作品『水紋~Water Crest~』が空間展示されており、 サウンドスケープ(音風景)という概念を元に、「音楽」で、水紋のように、流動的な変化を感じさせるような工夫がされていました。 空間全体で絵画の世界を五感で感じられるようになっていると感じました。 グッズ販売でも色とりどりなものが多く、Immersive Museumで感じた絵画の世界を実体験として鑑賞し、 カラフルな思い出を持ち帰れるような形になっていました。 まとめ これまでは美術館の壁にかけられていた額縁の世界を見るという芸術体験でしたが、 ここでは画家たちの作品の世界の中に自分たちが“入り込む”ことができました。 鑑賞する絵画から、体感する絵画へと変わったことで、今回の企画では、19世紀の時代に作家が感じていた時間の流れや光の動きを、 現代的な解釈を加えた新しい視点で体験することができ、多くの発見がありました。 世界中で“没入感”への需要が急激に高まっていて、 没入感が求められるのはゲームやアートだけでなく、イベントシーンでも注目されています。 そこで考えておきたいこととしては、何を見せる・展示するのか、ではなく、来場者側にどう感じてもらうかというところだと思います。 そこを踏まえた上で、技術を用いて空間を意識した奥行き感や立体感のある映像で臨場感を表現したり、 視覚だけではなくさらに音を加えるなどの、『五感』で没入感を高める仕組みが必要だと感じました。 ご紹介した展示は、10月29日まで、日本橋三井ホールで開催されております。 ぜひ実際に新しい絵画の体験をしに、足を運んでみてください。 【参考】 「Immersive Museum」公式サイト:https://immersive-museum.jp/ Immersive Museum.“日本初!音と映像により視覚体験を超えた絵画の世界に没入する体験でモネら印象派を味わい尽くす"飛び込むアート"を 日本橋三井ホールにて「Immersive Museum」開催決定”. PR TIMES. 2022-4-20. https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000004.000054201.html, (参照2022-08-04)

【ミライデザイン研究所】鑑賞する絵画から、体感する絵画へ -前編-

インサイドジール 日本語記事

クリエーティブ本部 デザイナーのIです。 【ミライデザイン研究所】とはーーー 空間デザインの領域から一歩外に飛び出し、 考え方やデザインの成り立ちについて考察、予想しアイデアにプラスしていく、そんな企画です。 今回のトピックは、現在日本橋三井ホールで開催中の 日本初の没入体験型ミュージアム「Immersive Museum(イマーシブミュージアム)」です。 芸術の楽しみ方も、時代によって変貌を遂げてきています。 額縁の中に入った作品を静かに眺め、自分自身と向き合い楽しむ芸術鑑賞も素敵ですが、 ここ数年盛り上がりを見せているのが"没入感"のある芸術世界の楽しみ方です。 この「Immersive Museum」は、近年演劇やアート、エンターテインメントのジャンルで世界的なトレンドとなっている “Immersive(イマーシブ)=没入感”をキーワードとする、新たなアート体験プログラムです。 世界的に著名な芸術作品を映像コンテンツ化し、広大な屋内空間の壁面と床面全てを埋め尽くす没入映像と特別な音響体験を提供する 新感覚体験型アートエキシビションで、従来の「鑑賞型」の芸術鑑賞のスタイルから「没入型」のスタイルを提供し、 来場者に新たな芸術鑑賞の「視点」を提示しています。 日本開催第一弾となる今回のテーマは『“印象派” IMPRESSIONISM』です。 世界的に人気の高いクロード・モネの「睡蓮」や、ドガの「踊り子」ルノワールの「ムーラン・ド・ラ・ギャレットの舞踏会」といった、 印象派の名画の数々が高さ6m、約700㎡の巨大空間に映像化されています。 参加者はその世界観の中を自由に歩き回り、視覚を通した「見る」「鑑賞する」といった行為を超えて、 あたかも全身で名画の世界に入り込んだようなアート体験ができる空間でした。 今回はこのイベントを体験して感じた下記の2点について考察してみたいと思います。 ①作品世界により深く入り込ませるための要素 ②没入体験を最大化するための工夫 ①作品世界により深く入り込ませるための要素 今回のプログラムでは、19世紀の西洋絵画研究で知られる早稲田大学文学学術院坂上桂子教授監修の元、 クロード・モネの作品を中心に、印象派を代表する8名の画家と約70作品が選定されました。 19世紀のフランスで絵画の世界に大きな革新をもたらした作品群が8つのシーンに分けられて構成されています。 8つすべてを1つの作品として通しで鑑賞する形で、1回の上映は約30分です。 上映される映像に切れ目がなく、8つのシーンが続けて流れることで、 没入したままの状態を保つことができる形になっていると感じました。 また、それぞれのシーンごとにテーマを設け、元の絵画作品を単純に映像化するだけではなく、 作品世界により深く入り込むための「要素」が数多く加えられています。 まず、8つのシーン構成をご紹介させていただきます。 ○Scene1 印象・日の出 「印象派」という名称のきっかけとなった、モネの名画「印象派・日の出」。 この絵に描かれている19世紀フランスのル・アーヴル港を、写真資料などを元にCGで再現されている。 眼前の風景、光と色を、どう絵画に定着させていったのか。モネの主観を追体験する。 ○Scene2 印象派展 19世紀パリの街角を抜け、とあるアパルトマンの上階へ。 第一回印象派展が開催されたナダール写真館を彷彿とさせる建物に入っていく。 展示されているのは実寸の印象派絵画。当時の人々が見たであろう印象派展を光の演出とともに鑑賞する。 ○Scene3 印象派の技法 印象派最大の特徴ともいえる、細かい筆致が空間を埋め尽くす。 鮮やかな色の絵具の重なりは、鑑賞者との距離によって色調が変わり、やがて写真のような水面が姿を現わす。 モネの「ラ・グルヌイエール」を題材に、印象派の技法へと没入する。 ○Scene4 印象派の画家たち 一括りに印象派と言っても、風景画を主題にしたピサロ。 市井の人々を描いたドガ、新しいライフスタイルの女性を描いたカサットなど、その眼差しと技法は幅広い。 全8回の印象派展に出品された絵画を中心に、画家ごとの個性の違いを体感する。 ○Scene5 絵画の中へ 画家の網膜がとらえた色彩の中へダイブする。 絵画の中へと進んでいくうちに、色はバラバラに分解され、描かれたモチーフは解体される。 二次元の絵画は三次元の点群となり、そこに入っていくにつれ意味が解体され、純然たる「色」に包まれていく。 ○Scene6 モネの連作 多くの連作を残しているモネ。 時間帯によって光の角度が変わり、それに伴い変化する色を再現するため、 彼は多くのキャンバスを用意して屋外に出かけ、対象の光が変わるたびにキャンバスを変えて制作したという。 モネが捉えようとした光の移ろいを再現する。 ○Scene7 睡蓮 モネの代表作である睡蓮。フランス・ジヴェルニーにある自宅の庭で、 モネの印象派グループが解体した後もその技法を追求し続けた。 光と色だけでなく、風邪や匂いまで感じさせるような、印象派の一つのゴールともいえる睡蓮の世界に没入する。 ○Scene8 印象派 既存の美術界の立ち向かい、絵画史に一つの時代を刻んだ印象派。 それは決して1人で成し得たものではなく、志をともにする仲間やライバルと影響を与え合い支え合うことで生まれた。 印象派の中心となった画家たちの肖像を紹介する。 この中でも絵画に入り込めるための要素として工夫されていると感じたポイントを、 3つのシーンと共にピックアップさせていただきたいと思います。 まず1つ目は、Scene1の「印象、日の出」です。 「印象、日の出」では、19世紀当時にモネが見たであろうフランスのル・アーヴル港を、 最新のCG技術を用いて実際の絵画作品と融合させ新たな感覚を生み出していました。 座っているクッションや床にも水模様が映し出されていて、まるでそこに自分もいるかのような感覚になりました。 この、床まで映像が続いているというのが絵画へ入り込む没入感の重要なポイントになっていると感じました。 2つ目は、Scene3の「印象派の技法」です。 印象派の特徴でもある鮮やかな絵の具を分割し、スケールを変えてみせることで制作過程の絵の中に入り込んだような体験ができるような映像になっていました。 自分自身の服や足にまで絵具がついているような演出になり、絵の一部になったような感覚を味わうことができました。 数々の筆致が重なり合い、だんだんモネの絵になっていくところは、絵のできる過程を見ているようで目が離せなかったです。 また、絵画のタッチ一つ一つを分解して、書き手の心情や表現したかったことに触れるという感覚が今までなかったので、 絵画を新しい視点で見ることができました。 3つ目は、Scene6の「モネの連作」です。 「モネの連作」では、同じ風景の異なる瞬間を切り取った作品群を連続的につなげ、時間の移ろい自体を体感でき、 画家自身が感じていた感覚に近いような体験ができるように工夫されていました。 作品を連続的に見ることで、前後の絶妙な色の変化に気づくことができ、より時間の流れを感じることができました。 こうした様々な手法を通じて、鑑賞者が画家自身になったかのような“視点の転換体験”を生み出し、 没入感を最大限引き出す空間が作られていました。 (後編に続きます) 【参考】 「Immersive Museum」公式サイト:https://immersive-museum.jp/ Immersive Museum.“日本初!音と映像により視覚体験を超えた絵画の世界に没入する体験でモネら印象派を味わい尽くす"飛び込むアート"を 日本橋三井ホールにて「Immersive Museum」開催決定”. PR TIMES. 2022-4-20. https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000004.000054201.html, (参照2022-08-04)