インサイドジール

【ミライデザイン研究所】能動的に鑑賞してしまう展示方法と空間についての考察 -前編-

2022.10.14

クリエーティブ本部 デザイナーのNです。

【ミライデザイン研究所】とはーーー
空間デザインの領域から一歩外に飛び出し、
考え方やデザインの成り立ちについて考察、予想しアイデアにプラスしていく、そんな企画です。

今回のトピックは、東京オペラシティアートギャラリーで開催されていた「ライアン・ガンダー われわれの時代のサイン」です。

身近な事柄を鋭く観察・分析して制作される彼の作品は、私たちにさまざまな問いを抱えさせます。
「あたりまえ、これってなんだっけ?」
大まじめに、しかしユーモアを交えて「そもそも」を考えるきっかけをつくるのは、ガンダーの作品の真骨頂です。

この展示自体「見る」ことについての考察が一つのテーマになっています。
会場にはオブジェ、インスタレーション、絵画、写真、映像など多岐にわたり作品が展示されていて、ただ鑑賞しやすい見せ方ではなく、
来場者が能動的に鑑賞する必要がある展示方法、見せ方が設計されていました。

これはガンダーの真骨頂である、「当たり前を問う姿勢」が、展示方法や空間の使い方にも表れていたからだと感じました。

ですので今回の記事では、なぜ能動的に鑑賞してしまうのかを
ガンダーのユーモアあふれる展示方法、空間の使い方の観点から考察していきたいと思います。

【ポイント1:あえて隠す】

この展示では、あえて隠し、全ては見せないような展示方法が多用されていました。
こちらはウェイティング・スカルプチャーという作品です。
見た目は黒いボックスになっていて、ボックスの左上にゲージがあり、一定時間が過ぎるとゲージが最初に戻る仕掛けになっています。
これらは世界の人口が100人増える時間や、個人が1日当たりインスタグラムに費やす時間、といったように
実はボックス一つ一つには意味があります。
しかしあえてキャプションなどを置かず、どんな時間を表しているかの説明が隠されているため、
鑑賞者たちはボックスのゲージを覗き、配られた紙で、ボックスの意味を探しながら、注意深く、観察していました。


こちらは「あなたをどこかへ連れて行ってくれる機械」という作品です。
作品の近くに手をかざすと、軽度と緯度が書かれた紙が出てくる仕掛けになっています。
展示空間内の壁にひっそりと設置されていて、見た目に関しても、美術館の設備のような
見た目をしているため、かなり気付きにくい作品になっていしました。
しかし、この作品に気づき、手を近づけ、紙を手にしたときに、ちょっとした優越感を味わえるようなスパイスの効いた作品でした。

このように、あえて全てを見せず、展示物の意味や展示物自体を隠すことで、
鑑賞者が作品を普段よりも観察し、作品を探す目を持ち、鑑賞していたと思います。
さらに、作品を見つけることで、意味が知ることができ、見つけた鑑賞者だけが得られる物があることで、
探すモチベーションや優越感が味わえるように設計されていました。
発見した者だけが知れる、得られ物がある体験設計も鑑賞者が能動的に鑑賞してしまう要因の一つだと感じました。

【ポイント2:上下左右、空間全体を使う】

こちらは「自分の能力に自信を持て」という作品です。10cmほどのすごく小さな作品で、大きな絵画の端に展示されていました。
この作品に気づいていない人も多く、見るための感覚を研ぎ澄ませなければ、素通りしてしまう作品になっています。
またこのネズミオブジェは実物大で展示してあり、
本物なのか作品なのか、一目ではわからないような展示方法からも作者のユーモアが感じられました。


こちらは「摂氏マイナス267度 あらゆる種類の零下」という作品です。
まるで誰かが持っていた風船が飛んでいってしまったかのように天井に展示されていて、上を見ない限り存在に気づくことはできません。
美術館なので、天井高も高く、普通の美術展では経験したことのないような高さに作品があり、
この作品に気付かず、この下にある作品を注意深く鑑賞している人がいる、といったような面白い状況ができていました。

この2つの作品のように極小の作品が床の端に展示されていたり、普段は経験することのない高さに作品が展示されていて、
上下左右の空間を限界まで使うことで、鑑賞者がいつもよりも感覚を研ぎ澄まし、
空間全体を見ようとしなければ、作品を見逃してしまう設計になっていました。
普段の見方では見逃してしまうからこそ、鑑賞者に能動的鑑賞を促していたように思います。

後編では、ポイント3についてご紹介します。


 

【参考】
「ライアン・ガンダー われわれの時代のサイン」公式ページ:https://www.operacity.jp/ag/exh252/