【ミライデザイン研究所】 浮世絵という素材で見せる スピリット・オブ・ジャパン -前編-

インサイドジール 日本語記事

クリエーティブ局 デザイナーのOです。

【ミライデザイン研究所】とはーーー
空間デザインの領域から一歩外に飛び出し、
考え方やデザインの成り立ちについて考察、予想しアイデアにプラスしていく、そんな企画です。

今回のトピックは、現在角川武蔵野ミュージアムで開催中の「浮世絵劇場 from Paris.」についてです。
浮世絵は江戸時代初期に確立された絵画ジャンルです。
低価格で販売されたことから庶民の間でもかなり浸透し「浮世=現世」を表す絵画と言われました。
今で例えるとSNSなどの、誰もが楽しめる身近なメディアだったようです。
時代を超え、ヨーロッパに渡ったあとも、ゴッホやモネなどの著名な画家たちに大きな影響を与えたと言われています。

今回の展示ではそんな浮世絵をテーマとしていますが、有名な浮世絵の実物が展示されているわけではありません。
浮世絵劇場というタイトルの通り、展示室は大きな劇場と化しており、360°を浮世絵を再構築した映像が映し出されます。

この企画はフランスで活躍するクリエイティブチーム「ダニーローズ・スタジオ」が
フランス国内で行った企画「Images of the Floating World」をもとに、パワーアップさせて浮世絵の国日本へ凱旋しています。

今回はこの企画を体験して感じた下記の2点について考察してみたいと思います。

①浮世絵を再構成して見せることの意味
②没入感の高い体験を生んでいる空間の工夫の考察


①浮世絵を再構成して見せることの意味
前述したようにこちらの企画は浮世絵をテーマにしてはいますが、
実際の有名とされる日本の古くからある浮世絵の展示はしておりません。
来場者が空間に入っていくと広がっているのは360°全て映像が投影される、インスタレーション空間です。

全12幕のシーンに分かれ、多くの人に親しまれてきた浮世絵の数々を再構成した、映像作品が大きな空間に映し出されます。

浮世絵劇場というタイトルだったため、私も足を運び鑑賞する前には
「一幕ごとに同作者や同じ作品群のものをまとめているのではないか」と思っていたのですが、実はそうではありません。
第一幕を鑑賞した際に、「再構成した」という言葉の意味を知ることになります。

◆一幕「風景」

オープニングに流れるのは、葛飾北斎や歌川広重などの風景画をメインとした映像です。
富嶽三十六景、諸国滝巡り、東海道五十三次などの膨大な数の作品たちが、屏風が開いていくように現れては消えてゆきます。
有名浮世絵を単にスライドショーで見せるだけにはとどまらず、屏風というモチーフと組み合わせることで、
鑑賞者に空間を感じさせ、一気にこの空間の中に引き込ませる工夫だと感じました。

また、足元に広がるのは北斎がよく水の表現をする際に用いていた、揺らめきの文様です。
壁面に広がる屏風の背景にもこちらを用いており、空間をより広げ、鑑賞者の没入感を深める役割を果たしていたように思います。
そして何より、この絵を一枚の絵として見せたのではなく、「背景や足元に投影することによって、
没入感を増すための素材として使った」ことに、今回の展示の意義が詰まっているように感じました。

浮世絵の魅力を見せる。
そのためには浮世絵そのものを見せるのではなく、浮世絵の素晴らしい部分を抜粋して、映像として再構成する。
ダニーローズ・スタジオが「スピリット・オブ・ジャパン」を表現する際に最も意識した点がこれなのではないでしょうか。

◆第三幕「日本の妖怪たち」

浮世絵を「素材」として用いて新たな浮世絵の魅力を伝える、というのが最も強く表現されていたと感じるのがこの第三幕です。

舞台は一変して、薄暗い森へ。木々が生い茂る森の中でよく目を凝らしてみれば、木の陰から妖怪たちが飛び出してきます。

もちろんこれも、元々一つの作品ではありません。
それぞれの作品がある中で、愛らしい妖怪のキャラクターを抜粋し、映像素材として用いたものです。
基の作品の状態とは全く異なる「場」で鑑賞することによって、彼らの新たな表情や魅力を発見することが出来ます。
 
また、この360度シアターという場を生かしていると感じたのは、
「鑑賞する場所によって遭遇できるキャラクターが異なる」という点かと思います。
同じところに立ち止まっていたのでは、遭遇できる妖怪の数は限られます。
森の中を歩くように、観賞場所を移動していく事によって、多くの気付きや新たな出会いを得ることが出来るのです。

その他のシーンも魅力的で、どれも浮世絵のすばらしさを再認識できるものとなっていたので、
気になる方はぜひ足を運んでみて、実際の映像を楽しんでいただければと思います。

後編に続きます)


なお、ご紹介した展示は、2022年5月8日まで会期を延長して、角川武蔵野ミュージアムで開催されております。
今回の記事ではご紹介できなかった映像作品の他の幕や、第二部の展示内容もありますので、ぜひ実際に体験してみてください。

■参考
・公式サイト:https://kadcul.com/event/50
・美術手帳 オンラインマガジン:https://bijutsutecho.com/magazine/news/report/24767