インサイドジール

【ミライデザイン研究所】3種類の体験で、ゴッホが見た世界を体感する【前編】

2023.01.16

クリエーティブ本部 デザイナーのTです。

【ミライデザイン研究所】とはーーー
空間デザインの領域から一歩外に飛び出し、
考え方やデザインの成り立ちについて考察、予想しアイデアにプラスしていく、そんな企画です。

今回のトピックは、
前編・後編と角川武蔵野ミュージアムで開催された「ファン・ゴッホ ー僕には世界がこう見えるー」についてお届けいたします。

角川武蔵野ミュージアムではグランドギャラリーにおいて、1100㎡以上の巨大空間をあますことなく、
映像と音楽で包み込む「体感型デジタルアート劇場」を開発しました。
本展示はその第2弾として、ファン・ゴッホが見た世界を会場の壁と床360度に投影された映像と音楽で追体験する展示となっています。
また、デジタルアート劇場に加え、年表と手紙と共にゴッホの生涯を辿る「ファン・ゴッホの手紙」、
無料エリアである「ひまわり畑のフォトスポット」があり、3つの会場でゴッホの世界を体験出来ます。

当初2022年11月27日(日)まで開催の予定でしたが、来場者が10月16日(日)までで15万人を突破し、
来場を希望する多くの声を受けたこともあり、2023年1月9日(月)まで期間が延長されました。

今回は先ほど述べた3つそれぞれの会場で、ゴッホの世界を体験するためにどのような工夫がされているのか、
そしてこの展示が多くの来場希望者を生み、期間延長まで至った理由を考察したいと思います。

【第1会場:来場者が完成させる空間】
まずは第1会場である「体感型デジタルアート劇場」についてです。
このエリアでは、「来場者がいることで完成する空間」になっていることが最も重要なポイントだと考えます。



ゴッホの絵画が壁や床にシームレスに投影され、音楽と映像によってゴッホが見ていた世界が表現されている空間で、
来場者が思いのままに鑑賞する姿が見られます。
おじいさんが森の中を歩き、カップルが座って海を眺め、街中で家族が写真を撮る。
中に人がいることで、絵画の世界に本当に人々が生きているような感覚を得る事ができ、幻想的な空間が完成するのだと感じました。

本展示の仕掛け人であるイマーシブアート クリエーティブディレクターのジャンフランコ・イアヌッツィ氏は、
「私は、観客をただ見るだけの鑑賞から解き放ちたいと思っています。それには観客自身がショーの不可欠なピースとなり、
巨大なステージ上の登場人物であると感じてもらうことが大切だと考えています。」と述べており、
その思いがしっかり組み込まれていると感じる空間でした。

【第2会場:飽きさせないグラフィック】
続いては、年表と手紙と共にゴッホの生涯を辿る「ファン・ゴッホの手紙」です。
このエリアでは、「飽きさせない細かいグラフィック」と「読まずとも理解できる年表」が重要なポイントだと考えます。


第1会場でゴッホの世界に入り込んだあとは、年表で詳しくゴッホの生涯を見ていきます。
一般的な展示会にある説明文の多くは、文字が小さかったり文章が長かったりと、読むうちに疲れてしまう、
そもそも読む気にならないと感じる人が少なからずいると思います。
それに対しこちらのエリアでは、じっくり読まずとも理解でき、飽きさせないための細かい工夫がいくつかあったので、
その中から2点ご紹介させていただきます。


まず一つ目は、赤い折れ線と表情イラストです。
ゴッホの感情の起伏を、折れ線グラフのような線とユニークな表情イラストで表現しています。
表情イラストは同じものがないのではというほどパターンが作られており、一つ一つ見ていく楽しさがありました。
この赤い折れ線と表情イラストにより、幸せな時や思い悩んでいる時などの流れを直感的に理解することができます。


二つ目は、説明文を一言でまとめたテキストと、変化していくフォントです。
先ほど、説明文が長いと読む気にならない人がいると述べましたが、こちらでは説明文の印象的な言葉や要点を壁面上部に大きく出し、
細かい文を読まなくても出来事が理解できるようになっていました。
また、上の写真はこのエリアの序盤のグラフィックで、文字はゴシック体で統一されているのですが、
年表が進むにつれてフォントに変化が出てきます。


こちらは終盤のグラフィックです。
言葉一つ一つのフォントが変えられており、違和感と面白さを感じるような文字になっています。
ゴッホは思い込みや感情の起伏が激しい部分があり、波瀾万丈な人生を歩んでいたようで、徐々に精神的に不安定になっていく様子を、
フォントの変化で表現したのではと考えます。



他にも、ゴッホの絵画をモチーフにしたフォトスポットがあったり、年齢をひまわりの本数で表現していたりと、
多くの飽きさせない要素がありました。
出来事を直感的に理解させる年表の工夫と、細かい遊びのあるグラフィックが、
見ていて飽きない、疲れさせない展示にする重要なポイントだと感じました。

(後編に続きます)


※参考※
・角川カルチャーミュージアム公式サイト ファン・ゴッホー僕には世界がこう見えるー:https://kadcul.com/event/77