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【ミライデザイン研究所】思わず近づいてみたくなる工夫とは -後編-

インサイドジール 日本語記事

クリエーティブ本部 デザイナーのNです。 【ミライデザイン研究所】とはーーー 空間デザインの領域から一歩外に飛び出し、 考え方やデザインの成り立ちについて考察、予想しアイデアにプラスしていく、そんな企画です。 前編に引き続き、昨年11月に二子玉川にオープンした、絵本作家エリック・カールの描く絵本の世界観がテーマの 国内初インドアプレイグラウンド施設「PLAY! PARK ERIC CARLE」についてを、 同様の工夫が凝らされた他の体験型展示会・店舗と合わせてご紹介します。 3.見るだけではなく、触って学べる 「オートマタ(からくり人形)」では、エリック・カールの作品をモチーフにしたからくり人形やゲームが遊べます。 動物たちの形の磁石でボールの通り道を作り、下まで到達する速さを測ったり、 『パパ、お月さまとって!』のゲームではビー玉を上まで落とさずに運んだり、楽しみながら自分で工夫する面白さを感じられます。 ▲自分で動かすことで、どうしたら上手くいくのか考えながら遊べる エリック・カールは自分で絵具を塗った薄紙を切ったり、破いたりしてコラージュしながら絵を描いていました。 「アトリエ」ではそんなエリック・カールの技法を体験できるワークショップなどが開催されています。 絵本を読んで楽しんだ後に、自分の手で作品を生み出す体験をすることで、 子どもたちの掻き立てられた創造力や自主性を発揮できる場となっています。 ▲色紙作りや、昆虫標本などを手作りしオリジナルの作品が出来上がる -あらゆる視点から世界に入り込ませる- 今回は親子連れなど、ターゲットが絞られてくる施設で、大切だと感じたポイントを3点にまとめてご紹介しました。 1.子どもも親も安心して楽しむための、目が行き届く作りへの配慮 2.子供の目線だからこそ楽しめる仕掛けによって、大人も一緒に発見ができる 3.見るだけではなく、触って学べる場所を作ることで、体験と共に記憶に残る 絵本というワードに捉われ、子どもだけにフォーカスした作りだと 安全面などの心配から保護者は自由にのびのびと遊ばせてあげることも難しくなります。 また、子どもの気持ちになっているつもりでも、設計している大人ではまだその目線に立てていないかもしれません。 あらゆる視点から安心して親子が絵本の世界を楽しめる配慮が必要不可欠です。 -それぞれの要素をいかに空間に落とし込むか- 上記のポイント3点をまとめる大きな空間づくりとして「思わず近づきたくなる部屋の繋がり」がありました。 「PLAY! PARK ERIC CARLE」は一方通行ではなく、それぞれのブースを行き来できます。 だからこそ、ブースの繋がりや飽きさせない工夫が大事になってきます。 例えば「緑の迷路」を抜けた先に「ディスカバリーゾーン」があり「草をかきわけて」というタイトルで昆虫たちの展示がされています。 迷路の緑の壁がまるで草のようになっていることで、 子どもたちはその先に何が待っているのか興味津々で標本や虫の音に耳をすませます。 迷路からは「アスレチック」の上の部分が見え「この後に何か待っている!」と気持ちが昂ります。 「オートマタ(からくり人形)」のブースはアスレチックブースよりも床が低い位置にあるため、 遊んでいる際に大きなからくり仕掛けが目に入りやすくなっています。 体を動かし疲れたら、からくりを見て近くの休憩スペースで飲み物を飲むこともできるのです。 親子が自分たちのペースで目一杯パークを満喫できる空間の繋がりがあってこそ、3点のポイントが光ると実感しました。 ここまでに述べたような工夫は他の体験型の展示会や店舗にも見受けられます。 ●生活の中の「食」をテーマにした体験型展示「いただきますの前、ごちそうさまの先。展」 伊藤忠商事のあらゆるSDGsに関する活動を後押しする情報発信・体験の場として出来た スタジオ「ITOCHU SDGs STUDIO」(東京・港区)で10月16日(土)から11月14日(日)まで行われていた展示です。 世界食料デーにあわせ、「食べる」という日常の行為の背景や課題をグラフィックで展示するほか、 3種類のオリジナル弁当を販売していました。 空間をオレンジと緑で分断し、オレンジ側に「課題や問題」、緑側に「解決策や取り組み」を展示しています。 両方を交互に見たり、片方からじっくり読んだり展示の周り方は人それぞれですが、 明確なレイアウトなので難しく感じる内容も入ってきやすい見せ方となっていました。 ▲展示台も左右で課題と解決するための取り組みや製品を並べている グラフィック展示を見た後に奥へ進むと、3種類のオリジナル弁当のサンプルが展示されています。 期間中にそれぞれ入れ替わりで販売されていましたが、 私は[ITOCHU SDGs STUDIO]エバンジェリスト冨永愛さん考案の「発酵美容弁当」を購入できました。 それぞれのお弁当には食材一つ一つの解説がついてきます。 また、中身だけでなく、お箸や風呂敷も使い捨てのものでは無く、食事で生まれるゴミ削減が考慮されています。 ▲「ミライ弁当」「すてない弁当」などそれぞれ新しい観点から作られている 食に関する問題を理解してから食べる「いただきますの前」、食べ終わった後も環境に対する配慮がされた「ごちそうさまの先」。 問題への入り口を易しく、課題と解決方法という分かりやすい視点で見せ、展示会から帰った後も記憶に残る見せ方の構成でした。 ●体験型ストア b8ta (ベータ) 渋谷店 日本初の体験型ストア b8taの、有楽町、新宿マルイ本館に続いて、昨年11月に渋谷にオープンした新店舗です。 b8taは企業に手軽に実店舗に出品できるようにし、客は実際に手にとって体験できるという「商品との出会いの場」を提供する店舗です。 新店舗では新たにカフェスペースが設置され、食品カテゴリの体験も増えました。 カフェのカウンターに行くまでに試飲できる商品が並び、それぞれの説明を見た上で一つだけ試したいものを選べます。 店内は一方通行ですが、試飲試食できる商品の展示が事前に確認でき、コーナーが分かりやすいため、 ストレスなく自分の意思で体験している感覚を味わえます。 従来の店舗と違い、可動式の什器を導入したことでフレキシブルなレイアウトが可能となっていました。 ▲食品展示の中から選びカウンターで注文、その場で試飲ができる 気になった商品は専用のアプリケーションでQRコードを読み取りながら製品体験ができます。 一度読み込めば記録に残り、後から見返すことができるので製品名を忘れたり、 展示内容をしっかり見られなかったりなんてことがありません。 店舗の入り口外側にも、大きくアプリケーションのQRコードが掲出してあり、 入店してからの手間や時間の無駄が発生しない工夫がされています。 ▲アプリで詳細を確認し、後で購入ページにいくことも可能 -自由の中にある分かりやすい体験ストーリー- 体験型の展示は記憶に残りやすく、イベントや施設でも多く取り入れられているかと思います。 興味を持ってもらえる内容にすることは大事ですが、 自由に楽しんでもらいながらも、本来の訴求したい点が伝わるように導かなければなりません。 自分の視点が1つに捉われていないか、体験ストーリーを崩さないレイアウトになっているか、 今一度見直すことがコンセプトのブレない空間づくりへと繋がるのではないでしょうか。 ■おまけ  今回訪れた「PLAY! PARK ERIC CARLE」のある二子玉川がこの冬、エリック・カールの絵本の世界に染まっています。  『はらぺこあおむし』とクリスマスツリーは昨年12月25日まででしたが、スケート場や体験イベントは3月まで行われるそうです。  施設だけでなく、街に広がるカラフルな世界にぜひ足を運んでみてください。

はらぺこあおむし

【ミライデザイン研究所】思わず近づいてみたくなる工夫とは -前編-

インサイドジール 日本語記事

クリエーティブ本部 デザイナーのNです。 【ミライデザイン研究所】とはーーー 空間デザインの領域から一歩外に飛び出し、 考え方やデザインの成り立ちについて考察、予想しアイデアにプラスしていく、そんな企画です。 今回は、昨年11月に二子玉川にオープンした、絵本作家エリック・カールの描く絵本の世界観がテーマの 国内初インドアプレイグラウンド施設「PLAY! PARK ERIC CARLE」についてお送りいたします。 エリック・カールは「絵本の魔術師」と呼ばれ、仕掛け絵本などを得意とした日本でも愛される絵本作家です。 世界的なベストセラー絵本『はらぺこあおむし』や『パパ、お月さまとって!』など一度は読んだことがある人が多いのではないでしょうか。 こちらの施設は、「緑の迷路」「ディスカバリーゾーン」「アスレチック」「オートマタ(からくり人形)」「アトリエ」など、 9つのブースを行き来する構成となっており、遊びを通して学びを得ることを大切にしていたエリック・カールの世界観を表現しています。 子供だけでなく大人も楽しめる作りとなっていたため、今回は小学生の従姉妹と一緒に私もカラフルで暖かい空間に浸ってきました。 遊べて、学べる施設。 その魅力の秘密に着目して以下の3つのポイントに沿ってレポートし、 後半は体験型展示の観点から他の展示会や店舗についてもご紹介したいと思います。 【3つのポイント】 1.子どもも親も安心して楽しむための、目が行き届く工夫 2.子供の目線だからこそ楽しめる仕掛け 3.見るだけではなく、触って学べる 今回の前編ではポイント1.と2.のレポートをお送りします。 1.子どもも親も安心して楽しむための、目が行き届く工夫 「PLAY! PARK ERIC CARLE」の対象年齢は、0歳~12歳の子どもとその保護者です。 私が行った際もまだ背丈の低い子たちがたくさん訪れていました。 子どもたちは視線の位置が低く、親も姿を見失いやすいです。 そういった問題への工夫が入り口から施されていました。 入ってすぐの、靴を脱いで荷物をしまうロッカーエリアでは、鉢の巣をモチーフとした靴入れが並び、 その六角形から奥が抜けて見えることで、子どもは親の姿を確認しやすく、 また保護者もお子さんを見失わずに安心して荷物を整理できます。 ▲中が抜けていることで、通路の視認性を良くしている靴入れ 靴を脱ぎ、足の裏で感触を楽しみながら来場者は冒険の始まりを感じます。 3つある扉のうち1つを選び開けると、待っているのが「緑の迷路」です。 ここでは緑の塀で囲まれた迷路を進みます。 迷路の所々にはエリック・カールのイラストが散りばめられており、 子どもでも見やすい低い位置にある生き物達を頼りにしながらゴールを見つける楽しみがあります。 天井の鏡貼りによって高さや広がりを感じられ、保護者も子どもの位置を把握できます。 ▲柱や天井が鏡貼りの為、子どもが何処にいるか分かりやすい「緑の迷路」 その他にも「アスレチック」の遊具に登った際の高さが大人の目線にくるような設計など、 子どもたちの動きを制限せずに保護者が安心して見守ることができる工夫が随所に感じられました。 2.子供の目線だからこそ楽しめる仕掛け 「緑の迷路」を抜けると「ディスカバリーゾーン」が待っています。 ここは子どもたちが大好きな虫や動物を発見し、触れ、出会える場です。 エリック・カールが描いた生き物や昆虫標本などが展示されています。 展示されている動物達は触れることができ、手に優しい素材で作られています。 大人では気づかないような位置に扉や覗ける仕組みがあり、私もかがんで見るとまた違う発見が多くありました。 昆虫や夜の生き物などカテゴリに分かれており、昆虫標本の展示近くでは虫の音が聞こえ、 音や色合いでも生き物の生態を感じられます。 ▲触りやすい素材で、子ども達が自ら発見し楽しめる仕掛け達 ▲近くに寄って覗いたり、耳をすましたりすることで気づける展示 続いての「アスレチック」ブースでは、思う存分体を動かして遊べます。 そんなアスレチックの遊具の中にも、ワクワクする仕掛けがありました。 遊具の壁に描かれた★や▲の謎のメッセージ。 これはエリック・カールの絵本『たんじょうびのふしぎなてがみ』に出てくる手紙の内容です。 早速近くを探してみると、メッセージに書かれた記号が見つかりました。 指示の通りに辿っていくと最終的にあるものが見られます。 私も昔読んだことのある作品でしたが、子どもの目線で下から覗かないと探すのが難しい仕掛けがあり、 私一人では答えを見つけられず従姉妹が教えてくれました。 ▲少しかがむだけでは気づけない隠し要素で、子どもと一緒に楽しめる 詳しくは訪れてからのお楽しみですが、子供がどんな世界を見ているのか大人に気づかせてくれる要素でした。 (後編に続きます)