インサイドジール

【ミライデザイン研究所】「庵野秀明展」から学ぶ、来場者を夢中にさせる体験設計

2021.12.07

営業本部 プランナーのTです。

【ミライデザイン研究所】とはーーー
空間デザインの領域から一歩外に飛び出し、
考え方やデザインの成り立ちについて考察、予想しアイデアにプラスしていく、そんな企画です。

今回は、現在、新国立美術館にて絶賛開催中である、「庵野秀明展」についてお送りいたします。
みなさんは庵野秀明という名を聞いて、どんな作品を思い浮かべますでしょうか。
彼は、特撮怪獣映画として、第40回日本アカデミー賞にて7冠を制した「シン・ゴジラ」や、
世界中に熱狂的なファンを持つアニメ「ヱヴァンゲリヲン」シリーズなど、輝かしい・衝撃的な映像作品の数々を世に生み出してきました。
今展覧会では、「庵野秀明をつくったもの」「庵野秀明がつくったもの」「そしてこれからつくるもの」の3つのコンセプトにて
時系列で空間構成されており、それらの映像作品に関する、数々の貴重な原画や画コンテ、ミニチュア模型、完成した映像など
膨大な量の制作資料の展示がメインとなっています。
これだけの膨大な情報量の中を歩いてみましたが、世界観に没頭し時間が経つのがあっという間に感じました。
そこで、このような大規模な展覧会などにおいて、どのように来場者をうまく誘導しつつ、飽きさせない空間にするかのヒントを
この庵野秀明展から探し出し、その中から2つの視点をピックアップしてご紹介したいと思います。

1.同じ展示物に対して「魅せ方」をいくつ用意できるか

例えば、「第1章 原点、或いは呪縛」のエリアでは、
庵野氏が幼少期に影響を受けたアニメ・特撮のフィギュアや模型が所狭しと並べられていました。
これらは、美しく整列する美術館のような展示、というよりも、それぞれの特性に合わせ、模型を高さ違いに置いたり、吊り下げたり、
360度模型を見渡せるようにしたりと1つのエリアの中でも多種類の展示方法が活用されていました。
また、模型のほとんどはカバーがかけられておらず、ギリギリまで接近して見ることができるのも
臨場感や没入感を与える方法だと考えられます。

貴重な資料類も種類によって適切な展示方法が使い分けされていました。
画コンテや設定資料などは額に入れられて壁に展示、
膨大なメモや脚本などの厚みのあるものは平置きでそのリアルな物量感を訴求しています。
また、写真やポスターはパネルで大小分けて貼られているものもあったり、ターポリンで大きく出力し存在感を出させるものもあったりと、
平面物だからこそ単調にさせないためにもメリハリのある展示をすることが必要だと言えます。

さらに、庵野秀明展ということで、もちろん映像作品も多く展示されています。
小さなモニターで映し出されたものもあれば、縦3m×横15mの巨大LEDスクリーンを用いたもの、座ってゆっくり鑑賞できるスペース、
画コンテと見比べながら見られるコーナー、天井高までプロジェクターによって高く投影されたものなど、
1つの「映像」に対しての観る方法がいくつも用意されていました。

このように、同じ種類の展示物に関しての魅せ方を多く出すことで、来場者を長い時間飽きさせずに夢中にさせることが可能になります。
視点や見栄え、動作が単調であると、集中力の低下や、印象に残らないなどの原因となり、
どんなに中身が素晴らしい展示品でも魅力が伝わらないこととなってしまうのです。
常に、この展示方法で本当に良いのか、他に最適な方法があるのではないかと考えることが重要になります。

2.人の行動を予測し、さりげなく誘導・制限する

人の行動に無理矢理に制限をかけて誘導をするというのは難しいことです。
いかにストレスなく「さりげなく」人を動かすことができるかが、大きな展覧会やイベントでは鍵になってくると考えられます。
例えば、この庵野秀明展では、よくある「順路」の矢印看板の案内がなくても、大勢の人が道に沿ってスルスルと動いていました。
そして、道に迷ったり、逆走してしまったりしてしまう人もほとんどいなかったように思います。
また、人が詰まって待たされるなんてことも特にありませんでした。
もちろん、コロナ対策で人数を制限していたこともありますが、それ以外にもきちんと空間計画されていた結果だと思われます。
その方法とは、十分な道幅で緩やかに進む強制動線にされていたということです。
狭く複雑な道幅や曲がる角が多いと、移動のためだけの時間や何もない時間が多いと感じる要因となり、
強制されている印象が強くなってしまいます。
また、今回は空間のきっちりとした区切りが少なく、
「隣のエリアから残酷な天使のテーゼが聴こえる!」、「投影された映像が少し見えるけどなんだろう?」などの、
次に早く進んでみたいという気持ちを昂らせる要素も、人をそちらに無意識に動かす要因になっていたと考えられます。

▲奥の別のエリアまでの区切りが少なく、動線も広く視野が開ける

また、人にさせたくないことを、さりげなく制限することも時には必要になってきます。
例えば、この庵野秀明展では映像作品が多く展示されていますがそれらは撮影が禁止になっています。
ほかの展示品は殆どが撮影可能のため、来場者は混同しかねません。
よくある、撮影禁止のマークも本当に毎回確認しているかと言われると、ほとんどの人が気にしていないのではないでしょうか。
そこで、モニターの位置を人の視点より高く配置することで自然と写真を撮影しにくくするようにしています。
そうすることで、モニター下に対比のために展示されている画コンテなどはしっかりと記録ができつつ、
映像はうまく写らないようにすることが可能になります。
モニターも入れて全面を写すには後ろにしっかりと下がるか、カメラの角度を付けなくてはならず、撮りにくいと感じさせることができ、
撮影禁止のマークに気づく機会が増えるとも考えられます。

▲上にモニターがあり、実際の映像が流れている。

前に述べたように、人の動きを予測し、それに対する解決方法をいかに簡潔にするかが重要になってきます。
今回のように道幅を広くとって緩やかにすることや、撮影禁止のものを高く掲出するなど、
意外と簡単な方法が解決に繋がっているケースが多いです。
案内板や注意喚起以外にもっと適切な方法がないかを考えることが、自然と意匠的な造作に繋がったり、
スタッフ・来場者のお互いにストレスのない運営に繋がったりと、様々な利点を生むことができるのではないでしょうか。

【まとめ:隠れた心の声を読み取る力】

今回の展覧会から学んだことはまとめると以下の2点です。

「どう来場者をうまく誘導しつつ、飽きさせない空間にするか」

1.魅せ方を多く用意することで飽きさせず、夢中にさせ続ける
2.さりげなく誘導・制限することで、快適な体験空間になる

今回の庵野秀明展の様に、来場者が見て回る形式の展覧会においては以上の2点を常に抑えておかねばなりません。
そして、十分な体験設計において、最も重要視すべきことは、体験者(来場者)の気持ちです。
人の心情を中心に考えること、そのためには、声には出さないけれども、
実は来場者が思っているであろうことを読み取る力が重要だということを再確認させられました。
人が当たり前にさりげなく行動していることや、面白いと思っていること、快適だと感じていることには、
なにかしらの理由や工夫が凝らされています。
そうした日常のちょっとした隠れたヒントをよく観察し、提供することが、より真髄をついたクリエーティブになるのではないでしょうか。